1. 意思決定の背景と実務上の重要課題
社内基幹システム、AWSやGoogle Cloud上の社内向けインフラ、SaaS管理画面に対するアクセス制御において、「送信元グローバルIPアドレスの固定とホワイトリスト登録」は、最も低コストかつ即効性のあるセキュリティ対策として定着している。
しかし、コロナ禍以降のリモートワーク常態化とゼロトラスト化の進展により、従来の「オフィス回線にISP(インターネットサービスプロバイダ)の固定IPを1個契約する」という設計は破綻を迎えている。自席に縛られていた社員が自宅やカフェ、コワーキングスペースからアクセスする現在、ISPの固定IPを境界防御に用いる構成では、全員を一度オフィスのルーターへVPN接続(オンプレミスVPN)させ、オフィス回線を経由してインターネットへ抜ける「ヘアピンルーティング(トランジット接続)」を強いられる。結果としてオフィス回線の帯域枯渇、ルーターのセッション枯渇、遅延による業務効率低下が頻発する。
これに対し、現在急速にシェアを伸ばしているのが「クラウドVPN(セキュアゲートウェイ)による専用固定IP付与」である。社員の端末にクライアントソフトを常駐させ、物理的な接続回線(自宅光回線、テザリング、公衆Wi-Fi)に関わらず、クラウド上の専用ゲートウェイを経由させることで、特定の静的グローバルIPアドレスからターゲットシステムへアクセスさせる方式だ。
ITインフラ担当者が直面する意思決定の核心は以下の3点に集約される。
- 物理的なオンプレミス設備(VPNルーター、オフィス内サーバー)への「着信」が必要なのか、AWS/SaaSへの「発信」制限のみで完結するのか
- 社員数(同時接続端末数)が何人を超えると、クラウドVPNのアカウント課金総額がオフィス回線増強+プロバイダ固定IPのコストを上回るのか
- 管理工数、トラフィック逼迫時の復旧責任、回線二重化の耐障害性を誰が担保するのか
本稿では、プロバイダ固定IP(OCN、インターリンク等)と法人向けクラウドVPN(NordLayer、GoodAccess等)の料金体系、技術制約、運用負荷を冷徹に数値化し、企業規模やインフラ構成ごとに最適な調達経路の境界線を明確にする。
2. 【条件別】損得分岐マトリクス(早見表)
企業のワークスタイルと接続ターゲットの種別に応じた最適解の分岐を示す。自社の現在の物理構成と、今後1〜2年のテレワーク比率の推移に照らし合わせて参照されたい。
| 利用シナリオ | 主な接続先 | 接続元環境 | 推奨アーキテクチャ | 費用感(税抜) | 判定理由と決定打 |
|---|---|---|---|---|---|
| A. 拠点内サーバー公開型 | 本社内オンプレミスサーバー、監視カメラ、NAS | 外部取引先、特定拠点 | プロバイダ固定IP(回線直結) | 月額1,100円〜12,000円 / 拠点 | 物理ルーターへのインバウンド(着信)ポート開放が必須。クラウドVPNでは外部からの任意ポート着信接続は構成が複雑化し不向き。 |
| B. 完全出社型オフィス | AWS、SaaS(Salesforce等)、社内ERP | オフィス内LAN(固定) | プロバイダ固定IP(回線直結) | 月額1,100円〜10,000円 / 拠点 | 全員が同一拠点から接続するため、端末ごとのアカウント課金が発生するクラウドVPNを採用するとコストが跳ね上がる。 |
| C. フルリモート/ハイブリッド(小規模: 1〜15名) | AWS、GCP、SaaS管理画面、外部受託開発サーバー | 自宅、コワーキング、カフェ | 法人向けクラウドVPN(固定IP付与) | 月額約1,500円〜2,500円 / 席 + 固定IP 約4,000円〜6,000円 / 月 | 自宅回線のIP固定化は実質不可能。オフィスVPN機器の管理・保守契約が不要で、即日アカウント追加・剥奪が可能。 |
| D. ハイブリッドワーク(中規模: 16〜50名) | クラウドインフラ(IaaS)、SaaS、オンプレミス混在 | 出社+在宅 | ハイブリッド併用(拠点IP + クラウドVPN) | 拠点回線:月額約8,000円 + クラウドVPN:月額約30,000円〜60,000円 | オフィス自体への外部着信を維持しつつ、テレワーク端末はクラウドVPNを経由させてオフィス回線のヘアピン輻輳を回避。 |
| E. 大規模(51名以上)かつトラフィック大 | 自社開発環境、大容量ファイルサーバー | 全国拠点、在宅 | 閉域網アクセス/ゼロトラストSSE(Cloudflare One等) | 月額約100,000円〜 要見積 | 単純なIPホワイトリスト運用の限界。固定IP課金ではなく、コンテキストベースのID認証基盤(ZTNA)への移行が妥当。 |
3. 【徹底対比】主要選択肢の構造・スペック・料金比較
プロバイダ固定IPの代表的サービス(OCN IPoEサービス、インターリンク ZOOT NATIVE/マイIP)と、法人向けクラウドVPNの代表的サービス(NordLayer、GoodAccess)を、アーキテクチャと料金体系の両面から直接比較する。
アーキテクチャの根本的差異
- プロバイダ固定IP: 物理回線(NTT東日本・西日本のフレッツ光や光コラボ)の終端装置(ONU)またはルーターに対して、プロバイダが静的グローバルIPv4アドレスを割り当てる。IPアドレスは特定の物理配線に縛られる。
- クラウドVPN(専用固定IP): クラウドベンダーがホスティングする専用VPNゲートウェイに静的グローバルIPv4アドレスが割り当てられる。世界中どこからでも、クライアント端末がVPNトンネルを張ることで、そのゲートウェイの出口IPアドレスとして振る舞う。
主要サービス詳細スペック・料金対比表
| 比較項目 | プロバイダ固定IP(インターリンク ZOOT NATIVE) | プロバイダ固定IP(OCN光 IPoE v6アルファ等) | クラウドVPN(NordLayer) | クラウドVPN(GoodAccess) |
|---|---|---|---|---|
| 基本月額費用(税抜) | 2,000円 / IP1個(回線料別) | 約8,000円〜12,000円(光回線+IP1個一式) | $8〜$11 / ユーザー / 月(Core〜Premium年払換算) | $49〜$89 / 月(Small〜Businessプラン、固定IP含む) |
| 専用固定IP費用 | 基本料金に含む | 基本料金に含む | 専用固定IPオプション:$50 / 月 | プラン基本料に1個含む(追加は要問合せ) |
| 初期費用 | 0円(違約金なし) | 3,000円〜(工事費別途) | 0円 | 0円 |
| 接続方式 | IPoE(DS-Lite / 固定IP専用網) | IPoE(OCN v6アルファ専用網) | WireGuard / OpenVPN(専用クライアント) | OpenVPN / WireGuard / IKEv2 |
| インバウンド(外部からのポート着信) | 可能(ルーター側でポート開放) | 可能 | 不可(アウトバウンド通信のIP集約に特化) | ポートフォワーディング機能あり(限定的) |
| ロケーションの自由度 | 完全固定(契約回線のみ) | 完全固定(契約回線のみ) | 世界中どこからでも利用可能 | 世界中どこからでも利用可能 |
| 同時接続ユーザー制限 | 回線ルーターのセッション数に依存 | 回線ルーターのセッション数に依存 | 契約アカウント数に準拠(端末台数は規約内) | 同時接続ユーザー数ライセンスに準拠 |
| 通信速度の傾向 | IPoEのため夜間混雑に強い(ベストエフォート) | 高いバックボーン信頼性、帯域優先オプションあり | ゲートウェイの設置国・回線網に依存(日本リージョン選択可) | 日本を含む世界各国のゲートウェイ選択可 |
| 管理機能(ダッシュボード) | 契約管理のみ | 契約管理のみ | 社員アカウント発行、SSO連携(Google/Okta)、二要素認証強制 | 社員招待、アクセスログ監視、IPアドレス制御 |
| 最低利用期間・縛り | なし(即日解約可) | 2年契約自動更新等あり | 1か月(月払い)または1年(年払い割引) | 1か月または1年 |
コスト構造の決定的な違い
プロバイダ固定IPは「回線単位の固定費(固定IP1個につき月額1,000円〜1万円強)」であるため、オフィスに100人在籍していようが、回線帯域が許す限り追加費用は発生しない。
対してクラウドVPNは「固定IP基本料(月額約5,000円〜1万円)+ ユーザー数課金(1名あたり月額約1,000円〜2,000円)」という完全従量・座席課金型である。人数が増えれば増えるほど、クラウドVPNのTCOは直線的に上昇する。
4. 【規模別・年数別】3年間の実額TCO(総保有コスト)シミュレーション
インフラ導入において、月額料金の単なる比較は誤認を招く。ここでは、ハードウェア(ルーター)調達、保守費用、アカウント管理工数、回線費用を含めた「3年間の総保有コスト(TCO)」を3つの組織規模で算定する。
算出条件の定義
- 為替レート: 1 USD = 150 JPY で換算(クラウドVPN利用時)。
- プロバイダ固定IP(パターンA): フレッツ光ネクスト回線料(月額5,000円)+ 固定IPプロバイダ(月額2,000円)= 月額7,000円。オフィス用VPNルーター(YAMAHA RTX830等)導入費100,000円(初期購入・設定費)、故障時予備・更新保守として月額換算2,000円を計上。
- クラウドVPN(パターンB): NordLayer Coreプラン(年払い月換算 $8/ユーザー = 1,200円/ユーザー)+ 専用固定IP($50/月 = 7,500円/月)。初期設定工数および端末セットアップ費用として初月30,000円を計上。ルーター機器購入は不要。
シミュレーション①:小規模(リモートワーカー 5名)
| 費用項目 | プロバイダ固定IP(オフィスVPN構築) | クラウドVPN(NordLayer導入) | 差額(クラウドVPN優位性) |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 100,000円(ルーター購入・設定) | 30,000円(セットアップ社内工数) | +70,000円(初期投資削減) |
| 1年目コスト | 108,000円(回線・ISP・機器保守) | 162,000円(5席+専用IP) | -54,000円 |
| 2年目コスト | 108,000円 | 162,000円 | -54,000円 |
| 3年目コスト | 108,000円 | 162,000円 | -54,000円 |
| 3年間TCO累計 | 424,000円 | 516,000円 | -92,000円(差額約9.2万円) |
分析: 金額面だけを見ればプロバイダ固定IP+自前ルーターの方が3年で約9万円安い。しかし、小規模組織において「オフィスのルーターがフリーズした際に誰が現地へ再起動しに行くのか」「ルーターのファームウェア脆弱性対応を誰が担うのか」という情シス不在のリスクを考慮した場合、月額換算わずか2,500円程度の差額でフルマネージドのクラウドVPNを採用するほうが、運用停止リスクを大幅に排除できる。
シミュレーション②:中規模(リモートワーカー 20名)
| 費用項目 | プロバイダ固定IP(オフィスVPN構築) | クラウドVPN(NordLayer導入) | 差額(クラウドVPN優位性) |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 150,000円(中位ルーター+キッティング) | 30,000円 | +120,000円 |
| 1年目コスト | 120,000円(高速回線+ISP+保守) | 378,000円(20席+専用IP) | -258,000円 |
| 2年目コスト | 120,000円 | 378,000円 | -258,000円 |
| 3年目コスト | 120,000円 | 378,000円 | -258,000円 |
| 3年間TCO累計 | 510,000円 | 1,164,000円 | -654,000円(クラウドVPN割高) |
分析: 20名規模になると、3年間で約65万円の開きが生じる。この規模における分岐要因は「トラフィックの中身」である。社員が日常的にアクセスするのがAWSのSSH/管理画面や特定SaaSのみ(低トラフィック)であれば、クラウドVPNのユーザー管理の手軽さ・セキュリティ(SSO、二要素認証)の恩恵が65万円のコスト差を正当化できる。しかし、社内ファイルサーバーや大容量通信を含む場合、クラウドVPNの帯域上限やアカウントコストが重荷となり、自社拠点ルーターへの集約(またはゼロトラスト製品への包括移行)へ舵を切るべき境界線となる。
シミュレーション③:中大規模(リモートワーカー 50名)
| 費用項目 | プロバイダ固定IP(オフィスVPN増強) | クラウドVPN(NordLayer導入) | 差額(クラウドVPN優位性) |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 300,000円(冗長化ルーター+SI設定費) | 50,000円 | +250,000円 |
| 1年目コスト | 240,000円(専有型回線+IP+年間保守) | 810,000円(50席+専用IP) | -570,000円 |
| 2年目コスト | 240,000円 | 810,000円 | -570,000円 |
| 3年目コスト | 240,000円 | 810,000円 | -570,000円 |
| 3年間TCO累計 | 1,020,000円 | 2,480,000円 | -1,460,000円(クラウドVPN大幅割高) |
分析: 50名規模ではクラウドVPNの3年TCOが約250万円に達する。単純な「固定IPによる送信元制限」だけのために年間80万円超を投じるのは投資対効果が極めて低い。この予算規模があれば、単なるクラウドVPNではなく、ID認識型プロキシ(IAP)の構築や、Cloudflare One、Zscaler等の包括的ゼロトラスト(SASE)ソリューションの導入が視野に入る。
🧭 【この分岐とあわせて検討したい意思決定バイブル】
関連する周辺領域の損得分岐点もあわせて確認し、全体の費用対効果を最大化してください。
- 🔗 【条件別】MDM(モバイル端末管理:CLOMO vs Optimal Biz vs Intune)の社用スマホ・PC台数別損得分岐マトリクス
【損得分岐】iOS/Android専任管理 vs Windows PC統合管理における月額費用(1台200円〜)と遠隔初期化(リモートワイプ)の確実性- 🔗 【条件別】法人向けクラウドストレージ(Google Drive vs Box vs OneDrive)の容量単価・共有権限統制損得分岐マトリクス
【損得分岐】容量無制限の必要性と社外パートナーとのファイル共有権限・ログ監査要件に基づく損得分岐
5. 実務で直面する「3大失敗パターン」と生々しい回避策
現場の情シスやネットワーク担当者が導入後に直面し、泥沼のトラブルに発展しやすい典型例とその回避策を提示する。
失敗パターン1:オフィス回線にテレワーク全員を集約し、上り帯域枯渇で基幹業務が麻痺
発生メカニズム
オフィスにプロバイダ固定IPを契約し、テレワーク社員全員のPCにL2TP/IPsec等のVPN設定を施して運用。全トラフィックが「自宅 → オフィス回線(下り受信) → オフィス回線(上り送信) → AWS/インターネット」というヘアピンルーティングを形成。テレワーク社員がZoomやTeamsで画面共有を行ったり、大容量ファイルをダウンロードした瞬間、オフィスの光回線の上り帯域(実効数Mbps〜数十Mbps)が完全に飽和。オフィス内にいる社員のネット接続まで切断され、業務停止に追い込まれる。
回避策
- スプリットトンネルの強制適用: オフィスVPN機器側でルーティングテーブルを厳密に定義し、社内LAN宛ておよび固定IP制限をかけている特定のクラウドIP宛ての通信のみをVPNへ流し、それ以外の一般Webブラウジングやビデオ会議通信は自宅のローカル回線へ直接オフロードする。
- クラウドVPNへのアウトバウンド逃がし: オフィス回線はオンプレミス管理用(着信)のみに特化させ、テレワーク社員のインターネット/SaaSアクセス制限用にはクラウドVPNを併用して通信経路を物理的に完全分離する。
失敗パターン2:IPoE(v6プラス等)とPPPoEの混在環境で「固定IPが反映されない」トラブル
発生メカニズム
通信速度改善のためにオフィス回線を「IPoE(IPv4 over IPv6)」に切り替えたところ、従来のPPPoE契約で取得していた固定IPv4アドレスが利用できなくなった、あるいは新しく契約したIPoE固定IPがポート開放(インバウンド通信)に対応しておらず、外部から社内サーバーや監視カメラにアクセスできなくなった。MAP-E方式の一般的な家庭用・低価格IPoEプランでは、1つのグローバルIPを複数ユーザーでポートごとに共有する仕様(ポート制限)になっていることが原因である。
回避策
- 固定IP専用IPoEプラン(固定IP1個専有型)の選定: インターリンクの「ZOOT NATIVE(固定IP1)」やOCNの「IPoE v6アルファ(固定IPプラン)」のように、DS-Liteや専用トンネル方式でグローバルIPv4アドレスを「まるごと1個」割り当てる法人向け特定プランを契約すること。家庭用の安価な「v6プラス」等は利用してはならない。
- マルチセッションによるPPPoEの併用: IPoE回線で高速なWebブラウジングを確保しつつ、固定IPによる外部公開サーバー用途のためだけに別セッションでPPPoE固定IP契約(月額1,000円〜2,000円)をルーターの特定ポートに割り当てて共存させる。
失敗パターン3:クラウドVPNの「専用固定IP」がブラックリスト入りして外部SaaSから遮断
発生メカニズム
海外ベンダーの安価なVPNサービスで「専用IP(Dedicated IP)」を追加契約したものの、そのIPアドレス帯(CIDRブロック)全体が「データセンター/VPNホスティング事業者(DigitalOcean、AWS、M247等)」名義として登録されていたため、接続先の金融系SaaS、Cloudflareで保護されたサイト、一部の厳格な認証プロバイダから「bot/プロキシ接続」とみなされ、CAPTCHAの頻発やアクセス拒否(403 Forbidden)を食らう。
回避策
- PoC(事前検証)でのIPレピュテーション確認:
本契約前にトライアル枠で払い出された固定IPのアドレスに対し、
ipinfo.ioやscamalytics.comなどの不正判定データベースを照会し、リスクスコアが低く、かつ接続対象のすべてのSaaS・APIで接続拒否されないかを必ず実機検証する。 - ホワイトリスト提供ベンダーの選定: 法人向けに特化したNordLayerやGoodAccess等、レピュテーション管理を能動的に行っている事業者のエンタープライズプランを選定し、万一ブラックリスト入りした際に即座に別の専用IPへ無償変更できるSLAを契約に含める。
6. あなたの最適解を導く「意思決定フローチャート」
次の4つの質問に順に答えることで、自社が採用すべき構成が論理的に確定する。
[Q1: 社内オンプレミスサーバーや監視カメラへ、外部から直接着信(ポート開放)させる必要があるか?]
│
├─【YES】───────→【判定:プロバイダ固定IP(回線直結)が必須】
│ ※外部からのインバウンド接続には物理回線に紐づく固定IPが必要。
│ (拠点ルーターに固定IPを設定し、NAT/ポートフォワーディングを構成)
│
└─【NO】(AWS/SaaS等のクラウド環境への「発信元制限」が主目的)
│
▼
[Q2: 固定IPを利用する対象端末の接続環境は「オフィス内LAN」に限定されるか?]
│
├─【YES】───────→【判定:プロバイダ固定IP(オフィス回線集約)】
│ ※全員オフィス出社であれば、月額数千円のプロバイダ固定IPが
│ 最もTCOが低く、端末側のアプリ導入・運用負荷もゼロ。
│
└─【NO】(自宅、コワーキング、出張先などリモートワーク環境が含まれる)
│
▼
[Q3: テレワーク対象の同時接続ユーザー数は「15名以下」か?]
│
├─【YES】───────→【判定:法人向けクラウドVPN(固定専用IP付与)】
│ ※少人数であれば月額コストは数千円〜1.5万円程度に収まる。
│ 高額なVPNルーター調達や保守の情シス工数を完全にゼロ化可能。
│
└─【NO】(16名以上がリモート接続する)
│
▼
[Q4: 接続先への通信トラフィックに「大容量ファイル転送や社内LAN共有」が含まれるか?]
│
├─【YES】───────→【判定:ハイブリッド構成】
│ ※オフィスに高速IPoE固定IPを敷設しVPNルーターを設置。
│ 大容量社内通信はスプリットトンネルでオフィス直結。
│ 外部SaaS専用の認証としてのみ低価格クラウドVPNを限定配布。
│
└─【NO】(AWS管理画面、SSH、WebベースのSaaS管理画面等の軽量トラフィックのみ)
│
└────────→【判定:クラウドVPN(中規模ライセンス)またはZTNA移行】
※トラフィックが軽量であればクラウドVPNの帯域でも十分対応可能。
ただし50名を超える場合はCloudflare One等のゼロトラスト基盤を検討。
7. 現場で迷ったときのFAQ(よくある質問5選とズバリ回答)
Q1. インターリンクの「マイIP」と「ZOOT NATIVE(固定IP1)」は何が違うのか?
回答: 通信の「トンネリング方式」と「回線依存度」が全く異なる。
- マイIP: ソフトウェア型VPN(PPTP/SSTP/L2TP)サービスである。ユーザーの自宅PCやスマホからインターリンクのサーバーへVPN接続することで、場所を問わず固定IPを付与する(実質的に個人向けクラウドVPNに近い構造)。月額1,100円と極めて安価だが、通信速度はベストエフォートで遅く、法人での一括ユーザー管理機能はない。
- ZOOT NATIVE(固定IP1): NTTフレッツのIPoE(IPv6)網直結のプロバイダ契約である。オフィス等のルーターに直接割り当てて物理拠点全体の通信を固定IP化する。高速かつ安定しているが、その回線があるオフィス内でしか使えない。
Q2. 固定IPアドレスが1個あれば、社内全員(数十人)が同時にAWSへアクセスできるのか?
回答: 可能である。 NAT(Network Address Translation / NAPT)という技術により、社内LANのプライベートIPアドレス(192.168.X.X等)を持つ数十〜数百台の端末通信は、ルーターを通過する際に単一のグローバル固定IPアドレスに変換されて外部へ送信される。外部のAWSやSaaS側からは「すべて同一の固定IPからのアクセス」として見えるため、ホワイトリストにそのIPを1つ登録するだけで全員がアクセスできる。
Q3. クラウドVPNを導入した場合、社員のプライベートなWeb閲覧まで会社に筒抜けになるのか?
回答: クライアントの設定(スプリットトンネルの有無)による。
- フルネル(Full Tunnel): 全通信がクラウドVPN経由となるため、社員がYouTubeを閲覧してもVPN事業者のログを介すことになり、トラフィックの行き先(ドメイン等)は管理者に可視化され得る。
- スプリットトンネル(Split Tunnel): 「AWSのIPレンジ(例: 203.0.113.0/24)宛てのみVPNを経由させ、それ以外のWebアクセスは各家庭のプロバイダから直接通信させる」という設定が可能である。プライバシー保護と通信帯域の節約の両面から、リモートワークではスプリットトンネル設定が実務上の標準である。
Q4. プロバイダの固定IPは契約後どのくらいで開通・利用開始できるのか?
回答:
- インターリンク等の即日発行プロバイダ: 既存のフレッツ光回線や光コラボ回線が既にオフィスに通っていれば、Web申込からクレジットカード決済完了後、最短数分〜数時間で接続用ID/パスワードが発行され、即日利用可能になる。
- OCN等の大手キャリアプロバイダ: 法人契約手続き、書面確認、開通審査を挟む場合、3営業日〜2週間程度を要することが一般的である。回線自体の新規工事が伴う場合は1〜2ヶ月かかる。
Q5. クラウドVPNの固定IPを契約すれば、社内情報漏洩対策としては万全か?
回答: 万全ではない。「固定IP制限」はあくまでネットワーク境界のフィルタリングに過ぎない。 固定IP制限は「その端末(またはVPN接続者)が正規の経路を通っているか」を担保するだけであり、PC端末自体のマルウェア感染、PCの盗難・紛失、フィッシングによるID/パスワードの流出、内部不正によるデータ持ち出しは防げない。固定IP制限をベースにしつつ、必ず「端末証明書認証」「IdP(Okta/Google Workspace等)での多要素認証(MFA)」「EDR(端末セキュリティ監視)」を多層防御で組み合わせる必要がある。
8. 結論と今すぐできるアクションプラン
固定IPアドレスの調達において、「プロバイダ固定IP」と「クラウドVPN」のどちらが絶対的に優れているという二元論は存在しない。決定的な判断軸は「通信の向き(インバウンド着信か、アウトバウンド発信か)」と「利用者の物理的な分散度(出社か、リモートワークか)」の2点に集約される。
最短で失敗を避けるための推奨構成
- オフィス内に自社サーバー・NASがあり、外部からアクセスさせたい企業: 迷わず「インターリンク ZOOT NATIVE」または大手キャリアのIPoE固定IPプラン(月額数千円〜1万円)を契約し、物理ルーターに割り当てること。
- フルリモート/ハイブリッドワークで、社員数15名以下の企業: オフィスに高価なVPNルーターを導入してはならない。「NordLayer」または「GoodAccess」の専用固定IPプランを契約し、全リモート社員に配備すること。物理ハードウェアの故障対応工数を排除し、月額1万〜2万円前後の運用コストで即座にAWS/SaaSのIP制限を完備できる。
- 社員数20名以上でテレワークが主体、かつトラフィックが増大している企業: 単一の固定IPによる境界防御運用自体が破綻しつつある。オフィス回線に依存したVPN集約は即刻停止し、クラウドVPNの限定利用と並行して、Cloudflare One等の「ゼロトラスト・ネットワーク・アクセス(ZTNA)」への移行計画を今期中に策定すべきである。
今週着手すべき実務チェックリスト
- 自社がアクセス制御を行いたい対象システム(オンプレミス、AWS、SaaS)の全リストアップ
- 対象システムが「インバウンド着信ポート開放」を必要としているかどうかの技術確認
- 今後1年間のテレワーク対象社員数と、利用端末台数の確定
- 現在のオフィス光回線の契約種別(PPPoEか、IPoEか、固定IP契約の有無)の契約書確認
- クラウドVPN選定時における接続先SaaSとのIPレピュテーション事前検証(トライアルの実施)